2016年11月13日日曜日

リベラル世界の中心で、トランプ勝利を考える -3-


日本のメディア、特に経済系のメディアだと、「トランプはマーケティングの方便として暴言を吐いていた。意外にマトモになりそうだからいいんじゃないか。むしろ炎上マーケの例として見習うべき」「ローカルの時代だから当然だ」「本当のアメリカは中部なのだ」というような論調を多く見かける。こちらで地べたで見ていた立場として、とても気になるのは、トランプ氏はこの選挙戦で、アメリカが(あるいは先進国世界が)大事にしてきた倫理観を破壊してしまったことだ。それはグローバリズム賛成か否かというレベル以前のものだ。これは現地で見ていて本当に酷かった。(ネタとしてやったのだとしても)他人に対するリスペクトという倫理観を蹂躙した人が大統領になることはシンプルに残念だ。こういう角度の視点が日本からだと見えにくいのではないかと思う。




選挙本番の前に子どもの学校から「学校便り」のプリントが来た。そこで校長先生は書いていた。「毎年10月というのは浮かない月ではあるけれど、今年は特にそうだ。大統領選挙の報道内容が、親にストレスを与え、子どもにも影響を及ぼしている。そのことを学校でも懸念している」と。日本でそんなことがあるだろうか。

選挙2日後には、市の教育委員会から親宛にメールが届き「選挙後のストレスケアのためのリソース」の紹介があった。ならびに、メールの中で「教育の現場は、オープンで、インクルーシブな環境を守ります」との表明があった。
Many of your children may have come home from school yesterday describing caring and supportive dialogue taking place in their classrooms. I am confident that all members of the community will continue to teach and lead with our shared values of inclusivity and openness, fairness and justice, and love and caring. 

ここの学校には40か国からの生徒がおり、それをまとめるのはただでさえ大変な中で「あの暴言大将」を大統領として頂くことになった教育現場の公務員教員の方の心中を察するに苦しいものがある。同じことが病院でも、会社でも発生しているはずだ。「とにかく注目を集めるため」だからと言って、こういう破壊をして良いはずがない。

念のためだが、僕はトランプに投票したアメリカ人を責めるつもりは全くない。朝日新聞の好連載「トランプ王国を行く」を全て読んだ(これ素晴らしく良かった)が、支持者の間の止むに止まれぬ憂国・愛国の心情を感じた。

だからと言って「トランプでOK」「仕方ないよね」と済ませるのは、自分としては違うと思う。



個人的な読みとして、本当にアメリカ全体が「トランプ化」していくとも思えない。事実として、アメリカ全体での得票数はヒラリー6084万票、トランプ6027万票と、トランプが57万票も少ない。今回のトランプの得票数は、過去の共和党候補だったマケインやロムニーよりも少ないらしい。

さらに、この絶対数に個々の支持者の内実(所得や教育や発信力)を掛け合わせて考えると、差はもっと大きくなる。「少数派」が選挙制度の間隙を縫ってトップを獲れてしまった、という状況に見える。反対に激しい憤りを持つことになったリベラル派がこのまま退潮するとも思えず、情勢は不安定化するだろう。これこそが、アメリカが抱えてしまった課題で、これが結構深刻だと思う。

以上が、にわかウォッチャーとしての一旦の選挙ウォッチのまとめ。これからしばらく少し忙しくなるので、いつもの淡々としたペースに戻る予定です。

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