2016年11月11日金曜日

リベラル世界の中心で、トランプ勝利を考える  -2-



(前回からの続き)

大統領選期間中はケンブリッジの街の中は静かだった、ということを何度か書いた。それもあって、僕は、メディア、具体的にはボストングローブ、ワシントン・ポスト(ちなみに今は、オーナーがジェフ・ベゾス)、ニューヨークタイムス、CNNを中心に選挙戦をウォッチしていた。一応、リテラシーのたしなみとして、これらのメディアが中立ではないこと(これらはすべていわゆるリベラルメディアである)は意識はしていたつもりだ。

どうするThe Boston Globe.. オバマ・トランプ会談のニュース流れる喫茶店にて。



ここで実感として強調しておきたいのは、これらメディアは、選挙戦中盤以降、極めて強い論調でトランプを批判しまくっていたことだ。これは多分、日本にいたら感じられなかった温度感だったと思う。この猛攻撃が、結果が出た今となっては非常に微妙な雰囲気を生んでいる。大きく二つのことを感じる。

一つは「拳を激しくふり上げすぎたために、落とし所がつけられない」というような雰囲気。例えば、当日の深夜から翌日にかけてのCNNは見ていてその辺が気の毒なレベルだった。ボストングローブも、散々トランプにダメ出ししてきて、これから社論をどうするのか、と余計な心配をしてしまう。おそらく、少し大人しくした後、トランプの失策が出てきたら猛攻撃を再開するのではないか。しかし「トランプはバカだ」と強く言うことだけでは、分断は解消できない。そのことに気づいた方がいいと思うのだが。

もう一つは「これだけ(芸能人もセレブも総動員して)誘導キャンペーンをやったのに、思うように導けなかった」というような虚脱感。フィラデルフィアのヒラリーの最終演説にはジョン・ボン・ジョビとブルース・スプリングスティーンまで動員してたのに、結局ここの州もヒラリーは落とした。二人のファンだった僕としてもちょっとがっかり。ちなみにハリウッドの映画界・芸能界もほぼ総動員で民主党に肩入れしてこの結果となっている。芸能界も結構ショックが大きいと思う。

しばらくは癒しが必要な街の雰囲気


これらは結構深刻なトラウマになるだろう。今の所、クリントンサイドは「潔い」声明を出しているし、トランプも改心モードだ。日本語メディアでは「もう手打ちだよね」「株価も落ち着いてるし、まあいいか」という感じの報道があるが、選挙戦をどっぷり見ていた限りでは「これだけ"Divisive"にやりあっちゃったら、人情として、"ノーサイド"は無理だろね」「これからこの国の中は重いことになるね」と感じる。

今回の選挙戦では、トランプが煽ったインテリへの憎悪(=A)と、トランプ嫌いのインテリが煽ったトランプに対する憎悪(=B)がある。前者と後者で比較すると、後者の方がねちっこい形で尾を引きそうな気がする。Aの方が浮動的な気分の方が多そうで、Bの方はそうではないからだ。ボストンエリアは(カリフォルニアも?)Bを消化するのにしばらく時間がかかるだろう。

ちなみに、はっきり書いておくと僕は"トランプはダメ(Unacceptable)"の側だ。ねちっこく先鋭化はしないが、「彼がこの後うまくやるならいいんじゃない?」と迎合するつもりもない。意見を聞かれることがあれば「(部外者の日本人ではあるけれど)個人的にはあれは当選させるべきではなかった」と言い、具体的に理由を説明する。

さて、ここの地域が強く押していた考えは、この選挙では望む結果を得なかった。しかし、"アメリカのリベラルの筋金の入り具合(※)"と"この思想が世界に影響を与えてきたこと"については、ここに住んでみてこそ強く感じている。

この人たちのエネルギーと厚みはまだまだある。単純に「逆コース」へ進むとはあまり思えない。今回のこともあくまで動的な歴史の中での一点に過ぎないと思う。今回の結果が出た途端に「こうなることは予想できた」「グローバル化は限界だ。世界は内向きに向うだろう」とか言ってる論者の軽さは何なのかな、と感じるのは、自分が今リベラル世界の中心に居るからだろうか。

※(余談):選挙の結果が出た後、近所の食品スーパーに買い物に行ったら"Black Lives Matter"のトレーナーを着て買い物してる白人の中年女性が居た。(これの醸し出すニュアンスを書くと長くなるのでやめますが・・・強い意思表示です)これを見て、ホント、ここはリベラルの中心だなぁ、と思った。"マダム、 いいトレーナー着てますな・・・”と、話しかけてみたら良かったかもしれない。
あと一回くらいは、大統領選ネタを予定。今回の件で大変なところの一つは、実は教育現場(子供たちの学校)なので、その辺りを書いておかないといけない。

1 件のコメント:

  1. 興味深いレポートを楽しく拝見しました。
    次に機会があれば、是非ともマダムに声をかけて話を聞いてみてください。

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